イタリアの中でも特別美味しいとされるナポリのエスプレッソ。
朝起きてカフェを飲むことはナポリの人たちにとって当たり前で、一日を気持ちよく始める上で欠かすことのできない習慣です。そんなナポリには「カフェソスペーゾ」という、情深いナポレターノらしい習慣があります。
カフェソスペーゾとは
カフェソスペーゾとは、日本語で「保留されたカフェ」という意味があります。つまり代金は払ってあるけど、まだ提供されていないカフェ、保留されているカフェのことです。
第二次世界大戦中のイタリアでは経済的なダメージも大きく、多くの人が仕事を失くし、低賃金で長時間の労働が課せられていました。もちろんナポリも例外なく、たくさんの人が路頭に迷っていたといいます。
そんな中に生まれたカフェソスペーゾは、お金に余裕のある人が少しでも貧しい人が幸せな気持ちになれるように、前向きな気持ちで一日を迎えられるようにとの思いで始められたもので、レジでカフェを注文する際に、自分が飲むカフェの他に「もう一杯のカフェ」の代金を支払っていきました。
この習慣の素晴らしいところは、顔も名前も知らない「誰か」のためにカフェを払ってあげ、その「誰か」を知ることもないという点です。きっとカフェソスペーゾを支払う人も、そこまで裕福なわけではなかったと思います。ただ、自分に比べてつらい思いをしている人を少しでも助けたい、応援したいという想いでカフェを支払っていったのです。
この行動は当時のナポリで習慣化され、支払う人も、それを受ける人も、それぞれの心を豊かにするものだったはずです。
現在でも行われているの?
現在ナポリでカフェソスペーゾが行われているかというと、残念ながらほとんどその伝統はみられません。戦後、だんだんと経済が回復するにつれ、その伝統は姿を消していきました。
ですが、ナポレターノの中には今も尚、貧しい人たちを助ける慈愛の精神は残っています。僕が以前働いていたピッツェリアでは、毎朝前日に残ったピッツァ生地をパンにして焼き上げ、近くの年金暮らしのおじいちゃんおばあちゃんに配っていました。
また、着られなくなった服や靴などは近くの教会などに持っていき、必要としている人たちのもとへと届けられ、ボランティアで路上で寝ている人たちへ毎晩のようにあたたかいご飯を届ける団体も活動しています。
今後のカフェソスペーゾ
このナポリの習慣は今では全世界で広く知られ、2000年に入ってスターバックスをはじめとしたコーヒーショップで保留カフェを取り戻そうという動きが強くなっています。
さらにコロナウイルスで経済的に厳しい状況に立たされている人たちが増えている2020年、こうした動きはカフェだけでなく、パニーノやピッツァなど色々な分野で広がりを見せています。あとは本当に必要な人が人目を気にすることなく、その思いを受け取る環境を整えることが大事かなと思います。