パルミジャーノやゴルゴンゾーラ、ペコリーノなど、イタリアではそれぞれの地域に適したチーズの生産が行われています。南イタリアでは熟成されるタイプよりもフレッシュなチーズが盛んに生産されていて、その代表がカンパニア州の水牛のミルクでつくられるモッツァレラチーズです。
他の地域でつくられるモッツァレラチーズとは一味違うカンパニア州のモッツァレラチーズについて紹介します。
普通の牛と水牛のモッツァレラの違いとは?
普段日本で私たちが食べているモッツァレラチーズとは牛のミルクからつくられたもので、水牛のミルクからつくられたものではありません。ナポリでは通常、モッツァレラ(mozzarella)といえば水牛のミルクでつくられたものを指し、牛のミルクでつくられたものはフィオル・ディ・ラッテ(Fior di Latte)と呼んで区別します。
牛のミルクは一日一頭当たり約20~30Lとれるのに対し、水牛からは約7~8Lしかとれません。また、ストレスを与えないような十分な敷地や、水牛を清潔に保つためのブラッシングや栄養管理が必要なため、手間もすごくかかります。
水牛からとれるミルクに含まれる乳脂肪は普通の牛のミルクに比べるとおよそ約3倍!非常に濃厚でミルキーな味わいが特徴なんです。
モッツァレラチーズができるまで
モッツァレラチーズ工房の朝は大忙しで、早朝から前日にとれた水牛のミルクをモッツァレラチーズに加工していきます。そんなモッツァレラチーズができるまでの工程をざっくりおっていきましょう。
1. 水牛のミルクを温める
水牛のミルクはまず35~38℃に温められ、前日のモッツァレラをつくる際にできた乳清とカッリョ(Caglio)と呼ばれる動物性のレンネット(仔牛の胃などから抽出された酸性の液)を加えて全体をゆっくり均一に混ぜます。
レンネットが入った水牛のミルクは次第に凝固していき、1時間ほどでカード、イタリア語でカッリャータ(Cagliata)と呼ばれるミルクの凝固物が完成します。
2. カッリャータのカット
カッリャータがしっかりと固まったら、カサロ(Casaro)というカードをカットする道具をつかってカッリャータを切っていきます。小さくバラバラにカットされたカッリャータは下部へと沈んでいき、上部に溜まった乳清からは水牛のリコッタチーズもつくられます。
下部に沈んだカッリャータは大きなブロック状にカットされ、一定の温度を保ちながら適度なかたさになるまで熟成の時間がとられます。
3. フィラトゥーラ
カッリャータが適切な熟成の時間を経たことが確認できたら、ブロック状のカッリャータは細かくカットされます。そこに95~98℃ほどの熱湯を注ぎこみ、棒をつかってひとつの大きなチーズにまとめていきます。
この作業はフィラトゥーラ(Filatura)と呼ばれ、チーズが伸びる様子からこの名前がついています。
4. モッツァトゥーラ
フィラトゥーラを終え、つるつるの大きなモッツァレラチーズができあがると、いよいよ成形作業のモッツァトゥーラに入ります。「引きちぎる、切り離す」という意味があるモッツァーレ(Mozzare)という単語から生まれたモッツァレラチーズですが、まさにその言葉の意味にあるように、大きなモッツァレラチーズから二人がかりで小さな丸状にちぎって成形していきます。
形によって呼び名も変わっていて、一口大のボッコンチーニ(Bocconcini)、三つ編み状のトレッチャ(Treccia)などの種類があります。成形されたモッツァレラはフィラトゥーラの際につかった水分に乳清、塩を加えた液体の中で包装、保存されます。
モッツァレラチーズの保存方法と美味しい食べ方
ナポリに来るまで知らなかったのがモッツァレラチーズの保存方法。実はナポリでは水牛のモッツァレラチーズを冷蔵保存するのはご法度で、常温で保存します。生で食べるのがメインの水牛のモッツァレラを冷蔵庫に入れてしまうと、チーズがかたくなってモチっとした独特の食感もなくなり、ミルキーさも失われてしまうのです。
逆にピッツァのトッピングやパスタなどで火を加える料理には牛のミルクでつくられるフィオル・ディ・ラッテが適していて、こちらは冷蔵庫で保存されます。
とはいっても一度も冷蔵庫を通さずにモッツァレラが食卓に届くのはナポリ周辺だけのことなので(イタリアの他の都市でさえ運送中に冷蔵保存が入ることがほとんど)、モッツァレラチーズを生で食べるときは、食べる1時間前には冷蔵庫から出して常温に戻しておくことを覚えておきましょう。それかぬるま湯くらいの温度のお湯をボウルに張り、袋ごと温めてあげてもOK。これだけでも全然食感が違いますのでお試しあれ!