イタリアの行事の中でもヴェネツィアをはじめ、大きな盛り上がりをみせるのがカルネヴァーレと呼ばれる、カーニバルです。パスクワ(イースター)へと続く大切な行事で、イタリア中で祝日となります。
カルネヴァーレの由来
カルネヴァーレ(Carnevale)という言葉は、ラテン語の"Carnem levare"、イタリア語にすると"Carne levare(肉を取り除く)"に由来します。
日本ではお祭り、パレードといった意味で使われるカーニバルという単語ですが、実際にはカーニバルの後にある断食の期間で肉食を制限することから、この名前がついているのです。
カーニバルの起源と歴史
仮面をつけての宴
カーニバルの原形は古代ローマ時代に行われていた農耕神を祭るサトゥルナリア祭(Saturnali)がもとになっているとされています。
12月半ばに数日間(17~23日)に渡って行われていたサトゥルナリア祭では、農耕神であるサトゥルヌスへの生贄を捧げたり、収穫祭といった要素もありましたが、中でもこの祭りの最大の特徴はその期間だけなんと奴隷と主人の立場が入れ替わり、盛大に宴が行われることです。
この祭りは紀元前3世紀頃に市民軍の士気を上げるために行われたのがきっかけで、「社会的地位の入れ替わり」という斬新なアイデアは多くの下位層に支持され、彼らにとって一定の期間だけでも自由になれる貴重な祭りでした。
サトゥルナリア祭ではみなが仮面をつけることで社会的地位を隠して行われました。そこでは、奴隷が主人に従わなくても、男性が女性の格好をしても許されたと言います。
カトリック教会の介入
中世のカトリック教会はキリスト教にとって異教の行事をなくす必要がありました。これはバレンタインデーなどにも言えることです。
サトゥルナリア祭のような異教の祭りであったり、冬の終わりを告げ、春の訪れを祝う祭りとしての収穫祭などをキリスト教と関連付けることにしたのです。こうすることにより、異教の祭りという面は薄れていき、宴をなくすことで起こうる市民の反抗も防ぐこともできたわけです。
色々な節制が行われる四旬節の前に行われる行事として、このカーニバルはキリスト教の行事としての色を濃くしていきました。
カーニバルの時期
カーニバルの時期はイエスキリストの復活を祝うイースターを基準にして決まります。これはカーニバルの意味がイースターと密接に関わっているためです。(詳しくはイースターのリンクへ)
キリスト教の主にカトリック教会ではイースターの前日から数えて40日間はイースターへの準備期間とされ、四旬節(Quaresima)とよばれます。(実際には46日間)
その四旬節に入るまでの期間がカーニバルというわけです。四旬節では断食や私生活の節制などが行われていたため、その期間に入る前に人々は食事や踊りなどを楽しんでいました。
カーニバルの期間は地域によって違っていて、大体1~2週間に渡って行われます。全てのカーニバルに共通しているのは、四旬節のはじまる灰の水曜日(Mercoledì delle Cenere)の前日にあたる肥沃な火曜日(Martedi Grasso)で終わるということです。
・カルネヴァーレ(1~2週間)
(肥沃な火曜日)
↓
(灰の水曜日)
・四旬節(40+6日間)
↓
・イースター(復活祭)
肥沃な火曜日 マルテディグラッソ
マルテディ グラッソ(Martedì grasso)はカーニバルの最終日に当たります。
マルテディは「火曜日」、グラッソはイタリア語で「太った、たっぷり」といって意味があり、カーニバルの最終日に四旬節に入ってからは食べることのできない肉類や、家にまだ残っているものをお腹いっぱい食べることからこの名がついています。
ナポリでのマルテディグラッソの食事
マルテデグラッソでの食事は地域によって様々ですが、ナポリでは伝統的にラザーニャ・ナポレターナ(Lasagna Napoletana)が食べられます。ナポリのラザーニャはこのマルテディグラッソにふさわしく、ナポリのラグーソース、ポルペッティーネ(ミートボール)、ゆで卵、ハム、モッツァレラチーズなどなど、具だくさんでボリュームのあるラザーニャです。
ナポリでのカーニバルのドルチェ
イタリアのカルネヴァーレには甘いドルチェが欠かせません!イタリアでは地域によってこの時期に色々なドルチェがつくられます。
ここではナポリのあるカンパニア州のカルネヴァーレによく食べられるドルチェをご紹介します。
キアッケレ chiacchere
キアッケレはカルネヴァーレを代表するイタリアのお菓子で、ナポリに限らずイタリア全土で食べられます。Chiaccherare(おしゃべりをする)という動詞から名付けられたこのお菓子は、食べているときにパリッパリッとおしゃべりをしているような音がすることからきています。
薄く延ばして揚げた生地は軽い食感で、素朴だけどついつい手がでちゃう、そんなイタリア菓子らしいシンプルな味わいが特徴です。最近はヌテッラやピスタチオ、チョコレートといったバリエーションも豊富です。
サングイナッチョ sanguinaccio
ナポリでいうサングイナッチョはチョコレートをベースとして濃厚なチョコレートクリームのことをいいます。キアッケレにつけて食べられることが多いです。
サングイナッチョという名前はサングエ(血)からきています。これはナポリのあるカンパニア州では伝統的にこのチョコレートクリームに新鮮な豚の血が使われていたためです。「豚の血を使うことにより生まれる独特の酸味による後味がすごくおいしいんだ」こんなことを一緒に働いていたシェフは語っていました。
1992年に衛生上の理由から豚の血を使うことが禁じられ、現在ではこのオリジナルのサングイナッチョが市場に出回ることはありません。ただ、街はずれの個人で豚を飼育している人などは自己消費用に未だにこのサングイナッチョをつくっているといいます。
ミリャッチョ migliaccio
ミリャッチョ中世からつくられているカンパニア州を代表するドルチェで、キビを意味するラテン語のMiliaceum(ミリャチェウム)からきています。
キビは貧しい人たちにとってお菓子作りにつかうポピュラーな材料としてよく使われていましたが、現在ではキビ粉に変わってセモリナ粉が主に使われます。牛乳、卵、バター、リコッタチーズとたっぷりの砂糖でつくられたこのお菓子は、素朴ながらリッチであって、どこか懐かしさを感じます。
現在のカーニバル
カーニバルはこうした時代背景によってできたお祭りのため、キリスト教のクリスチャンの間でもそこまで宗教的にあまり重要な行事とされていないのも事実です。むしろ最近ではフェスティバル的な要素が主となって、各地で仮面を被ったパレードや踊り、音楽などが楽しまれています。
コスプレが大人気!
子どもたちの間では仮面よりもコスプレをすることが流行りに流行っています。ディズニーやアニメのキャラクターから、お菓子、伝統的なゲーム、社会的な風刺の意味を持つコスプレなど、街中ではたくさんのコスプレをした子供たちをみることができます。
コスプレは子どもだけではなく、若者たちの間でも流行っていて、日本のマンガやアニメに扮した若者も多く見られます。日本でコスプレといえばハロウィンが代表的ですが、イタリアではハロウィンよりカルネヴァーレの方がコスプレをする人たちは多いです。