キリストの誕生を祝う クリスマス
イタリアではクリスマスのことをナターレ(Natale)といい、イエスキリストが生まれたことを祝う降誕祭として世界各地で祝われています。
勘違いしやすいのですが、イエスキリストの誕生日ではなくあくまで誕生を祝う日です。実際の誕生日の日付を特定するものは聖書にも記されていませんが、古くから現在に至るまで多くの学者が、イエスキリストの十字架にかけられた日、当時行われていた行事や暦などから誕生日の推測が行われています。
クリスマスはイタリア人にとって一年で最も大切な行事の一つで、12月24日のクリスマスイブ(Vigilia di Natale)には家族や親戚一同が集まり、クリスマスをともに祝うのが伝統的です。
24日の夜は原則、家族みんな家でクリスマスイブを過ごすので、レストランなども休みのところがほとんどです。クリスマスの夕食は20~21時ごろにはじまり、0時にクリスマスを祝い、そのあとみんなでゲームなどを楽しんだりと夜遅くまで続きます。
クリスマスの歴史
1~3世紀ごろの古代ローマでは12月25日はヘリオス、アポロ、ミトラなどの太陽にまつわる神々を祝う日とされていました。これは12月25日が当時の冬至にあたり、この日を境に再び一日の陽が長くなることから、太陽が再び力を取り戻す日とされていたためです。
また、12月の半ばにはサトゥルナリア祭とよばれる古代ローマ独自の農耕神サトゥルヌスを祭る行事も行われていました。
そんな中、キリスト教のイエスキリストの誕生を祝う日として12月25日が祝われたのは4世紀に入ってからと言われています。古代ローマの人々に定着していた太陽の神の祭りとすり替えるように、イエスの誕生を祝う日としてのクリスマスが祝われるようになったのです。
これには異教のお祭りをなくし、キリスト教の布教を願うカトリック教会の方針が関係していたといわれています。
プレゼーペ キリスト誕生の模型
イタリアのクリスマスを象徴するものとして、イエスが生まれた様子を模型にしたプレゼーペ(Presepe)と呼ばれるものがあります。
プレゼーペはイタリア中で見ることができますが、特にナポリはプレゼーペのメッカで、スパッカナポリにあるサングレゴリオ・アルメーノ通りにはプレゼーペ職人による色々な人物の模型や、ベースがつくられていて、ヨーロッパ中から観光客が訪れます。
プレゼーペの最大の特徴は何といってもそのリアルさ。プレゼーペの製作には本物の土や、木、草だったり、水なども使われます。プレゼーペの中の人物もプレゼーペ職人によって精巧につくられていて、大きさも手の平サイズのものから、部屋ひとつまるまるプレゼーペのものまであります。
プレゼーペの共通するルールは、12月25日の0時ぴったりに赤ん坊のイエスを飼い葉おけに置くこと。
それまでのプレゼーペにはマリア、ヨセフのそばにある飼い葉おけにはイエスの姿はなく、0時ちょうどにイエスが置かれるとともに、「Buon Natale!(クリスマスおめでとう!)」とイエスの誕生を祝います。
サンタクロースの起源
プレゼントを子どもたちに運んでくるとして有名なサンタクロース。そのモデルには諸説ありますが、3世紀頃に実在した大司教ニコラウスだとする説が有力です。
ニコラウスは270年頃にミラの町(現在のトルコあたり)の大司教としてキリスト教の布教に力を注ぐとともに、貧しい人や弱い立場にある人々の嘆願にも耳を傾け、多くの支持を集めたとされています。
全ての財産を失い、娘を売らざるを得ない家族の存在を知ったニコラウスは、その家に金貨を投げ入れてその家族を救いました。その時投げ入れられた金貨は暖炉に干してあった靴下の中に入ったといいます。
このエピソードは子どもを守るといったニコラウスのイメージを確立し、現在のサンタクロースと形を変えて語り継がれてきたわけです。
サンタクロースのイメージである赤い服、ふくよかな体型、トナカイのそりなどの現代のイメージは19世紀に入って徐々に設定されていったもので、初めは聖ニコラウスをもっと多くの人に知ってもらうためのものであったかもしれませんが、世界に広がるにつれ、商業的な面も強くなっていきました。
ちなみにイタリアではサンタクロースのことをバッボナターレ(Babbo Natale)、直訳すると"クリスマスのお父さん"とよびます。
クリスマスメニュー
アメリカでのクリスマスディナーといえば七面鳥などが一般的ですが、イタリアでは地域によってクリスマスディナーの内容は変わってきます。
ナポリのクリスマスは伝統的に魚介を中心としたメニュー構成で、23日から24日にかけては魚屋さんが夜中も営業していたりと、イブのディナーに備えて各家庭で準備がはじまります。
●魚介たっぷりの前菜
クリスマスディナーに何を食べるかは各家庭によって結構違うもので、それぞれのマンマの得意料理が振る舞われることが一般的です。
それでも欠かせないのはタコのマリネ。タコはナポリ人の大好物で、茹でてシンプルにマリネにしたり、グリルしたり、煮込んだりと、ナポリでタコが嫌いな人はほとんどいないです。ちなみに日本ではほどよく食感を残す方が好まれますが、ナポリでは噛み応えがないくらいに柔らかくゆでるのが特徴です。
他にもカタクチイワシのマリネやスモークサーモンなどもクリスマスイブの食卓を華やかに彩ります。もちろんモッツァレラチーズやナポリ産サラミなどのカンパニア州ならではの前菜も食べられます。
●ボンゴレのスパゲッティ
パスタはボンゴレスパゲッティ(spaghetti alle vongole)が不動の人気です。
日本だとあさりは庶民的な食材のイメージがありますが、ナポリではその逆で、比較的高級な食材です。同じ貝類のムール貝と比べても、ムール貝が1kg 2~3ユーロなのに対して、あさりは1kg 10~12ユーロはするでしょう。
そんなボンゴレをたっぷり使ったパスタはクリスマスならではの豪華な食卓に欠かせない存在で、シンプルながらみんな大好きなメニューです。他にもスカンピとよばれる手長エビやオマール海老を使ったパスタも多くの家庭でつくられます。
●うなぎのフリット
クリスマスに食べられる食材といえばうなぎです。うなぎはぶつ切りにして粉をつけて素揚げにするのが伝統的な食べ方で、脂の乗ったうなぎにレモンをたっぷり絞っていただきます。
他にもスズキやクロダイなどをつかってアクアパッツァなどもと並んでイタリアで最もポピュラーな魚といっていいくらい、食べられている食材です。
手頃な値段と、煮ても焼いてもおいしく調理しやすいスズキですが、クリスマスには丸ごとミニトマトやオリーブなどと煮込んだアクアパッツァ(Acqua Pazza)がオススメです。
その他にも伝統的にはうなぎのフリットやバッカラ(干ダラの塩漬け)のトマト煮込みなども食べられます。
●インサラータ リンフォルツァ
これだけは外せないのが、ゆでたカリフラワーにパプリカの酢漬け、オリーブ、アンチョビなどをマリネしたインサラータ リンフォルツァ(insalata di rinforza)です。
この料理はその家の女主人がつくるのが伝統的で、おばあちゃんが作ることが多いです。
クリスマスの後の大晦日31日のチェノーネにも欠かせない一品です。 他にもブロッコレッティ(日本のブロッコリーとは違う)をシンプルにゆでてレモンと塩、オリーブオイルで味付けたものも伝統的なクリスマス料理です。
●ナッツとドライフルーツ
ナポリ弁で"チョーチョレ(ciociole)"とよばれるのがピスタチオ、ヘーゼルナッツ、くるみ、アーモンド、焼き栗などのナッツ類と、ドライイチジク、レーズン、ドライプルーンなどのドライフルーツです。
前菜、パスタ、メインと食べてお腹もいっぱいになってきたら、この"ciociole"を食べながらおしゃべりを楽しみます。デザートワインのパッシートとともにナッツ類をかじりながらの団らんのひと時はまさに幸せといえるでしょう。
大晦日のチェノーネにも欠かせません。
●パネットーネ ストゥルーフォリ
今や日本でもイタリアのクリスマス菓子として有名になりつつあるパネットーネ。
クリスマス期間はいつでも食べられるお菓子ですが、クリスマスの夕食にも当然登場します。小さな揚げドーナツにはちみつをからめたお菓子、ストゥルーフォリもクリスマスのドルチェには定番です。
クリスマスの伝統的なゲーム
クリスマスは家族や親せきが集まるいわば日本のお正月のようなイベント。夕食の後はみんなで深夜遅くまでゲーム大会が行われます。
モノポリー(monopoly)や人生ゲーム(il gioco della vita)などのボードゲームなども遊ばれますが、ナポリのクリスマスゲームと言えばトンボラ(tombola)とよばれる一種のビンゴゲームのようなものです。
トンボラではビンゴと違って多少なりともお金をかけますが、子供の分は大体おじいちゃん、おばあちゃんの財布からが基本です 笑。
他にもナポリ特有ののカードであるカルテナポレターナ(carta napoletana)を使ったゲームも人気です。